プロセスワーク - この世の調和を呼び戻す試み



プロセスワーク、あるいは、プロセス指向心理学の提唱者、アーノルド・ミンデルの「紛争の心理学」という本をどこで知ったのかは忘れてしまった。

けれども忘れられないのは、その本の中で、「社会的な葛藤というものは、個人的な葛藤と切り離すわけにはいかない」ことを教えてくれた場面である。

そもそもプロセスワークとは何かというと、ユング派の精神分析家であるミンデルが、タオイズムやシャーマニズムの要素を取り入れ、個人の治療だけでなく、グループでのワークも含め、「その場」で進行中の様々な心理的・身体的過程(プロセス)に注目することによって、問題解決をはかるための技法とでもいうところか。

プロセスワークの考え方としては、
場において意識されている側面である「一次プロセス」と意識されていないところで起こっている「二次プロセス」という捉え方や、
人はその人自身として振舞っている以上に、ある役割(ロール)を演じる立場で行動しているという見方、
更には、グループでワークをしているときに、それぞれの参加者が取っている役割(ロール)ではない、その場に直接現れていない役割(これをゴーストロールと呼ぶ)に注目するなど、
興味深い視点が多々盛り込まれている。

アーノルド・ミンデルは、妻のエイミーとともに、世界各地の「紛争」を抱える数々の地域に赴き、ワールドワークという名のもとに集団討論の場を主催してきた。ワールドワークでは、「紛争」の当事者同士が「対話」をし、互いの理解を深め、「紛争」の解決を目指すために、集団討論を行ない、ミンデル夫妻は心理学的な手法をもって、その討論を舵取り(ファシリテート)する。

そのワールドワークを、北アイルランドのベルファストで行なったときの話が、「紛争の心理学」に取り上げられているのだが、北アイルランドとアイルランド共和国という二つの地域の間の葛藤は、非常に大きなもので、多数の参加者がある中、双方が激しく主張をやり取りすることになる。

そうして、ある男性が激昂して相手を攻撃する言葉を吐き出し続けているときに、ミンデルはその男性の首が真っ赤になっていることに気がついて、次のような発言をする。
「ちょっと待ってください。あなたの首筋が真っ赤になってるじゃないですか。一体どうしたんですか」

すると、男性はふっと我に返り、「いや実は自分は心臓の病気持ちで、そのことが不安でならないんです」と答える。

この発言によって、この男性に対する共感・同情の気持ちが場に生じ、それまでの「二つの集団の間の葛藤」という構図が崩れ、「不安を抱える人間同士」という意識が生まれることになり、その後はお互いを尊重しながら対話を深めることができたというのである。

[なお、この場面は記憶に基づいて記述しているため、実際の内容とはある程度違いがあると思いますのでご了承ください]

社会的な不安の影に個人の不安があり、個人の葛藤の存在が明らかになったとき、社会の葛藤の解決の糸口が見つかるという、興味深い現象だと思う。

ぼくは、ワールドワークには参加した経験はないが、プロセスワークのワークショップには何回か参加させていただいた。

実際のワークでは、このような劇的なことは、そうそうあるものではないと思うが、その場の主催者であり舵取り役であるファシリテータの持ち味と、集まった参加者のそれぞれが持つ個性が相まって、そのときそのときの気づきが得られることは、大変よい経験になった。

このところそうしたワークの場からは遠ざかっているが、身近な人間関係の中で葛藤が起こるときなど、そうした経験が生かせるくらいに、ようやく体験の咀嚼ができてきたように思う。

こうした心理学的技法が広く知られるようになり、この紛争多き世界に少しでも調和が取り戻されるように願うものである。

なお、ミンデルの「後輩」に当たるプロセスワークの実践者であるゲアリー・リースは、イスラエルにおいて年二回のワールドワークを、パレスチナ、イスラエル双方から、また他にも世界各国の参加者を交えて行なっているとのことであり、こちらのページに紹介がある。

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