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2018年6月22日金曜日

15 フロリンダ・ドナー「シャボノ」 -- アマゾンの奥地・ヤノマミ族の暮らし


ここに翻訳を掲載している「シャボノ」は、アメリカのカリフォルニア大学ロスアンゼルス校で文化人類学を専攻した女性作家フロリンダ・ドナーが、アマゾン奥地の先住民族ヤノマミの暮らしを描いたノンフィクションです。

ドナーは、メキシコの呪術師の世界を描いた「ドン・ファン・シリーズ」で知られるカルロス・カスタネダの呪術師仲間でもあり、この「シャボノ」においても、幻覚性植物の摂取による変性意識体験や、シャーマニズムの奥深い世界観が興味深く語られます。

また、ヤノマミの人々は、NHKの番組から劇場公開された「ヤノマミ~奥アマゾン-原初の森に生きる~-劇場版」でも描かれるように、嬰児殺しの風習をもつことで知られます。

第15回目の今回は、先住民族の少年がシャーマンになるための儀式を行なう様子が描かれます。

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フロリンダ・ドナー「シャボノ」那賀乃とし兵衛訳、第15回
Frolinda Donner "Shabono" 1982 a Laurel Book
[今回は、四百字詰め原稿用紙30枚ほどの分量です]

☆なお、この作品の簡単な紹介はこちらにあります。
[本の紹介: フロリンダ・ドナー「シャボノ」]

☆第1回〜第14回はこちらです。
[第1回] | [第2回] | [第3回] | [第4回] | [第5回] | [第6回] | [第7回] | [第8回] | [第9回] | [第10回] | [第11回] | [第12回] | [第13回] | [第14回]

[この試訳は編集中のものですが、ネット上で公開することにより、多くの方からのご意見をいただけたらと考え、こちらに置くことにします]

それでは、どうぞお楽しみください。

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**180**
15

 プリワリウェはアンゲリカの兄だったが、どこに住んでいるのか、ついに分からないままだった。彼が必要になったとき、誰かが彼を呼ぶのだろうか、それとも彼自身がそのことに気づいてやってくるのだろうか、と私は考えた。彼がシャボノに滞在する期間も、何日になるのか、何週間になるのか誰も知らなかった。彼の存在には誰もが安心するような何かがあった。夜にヘクラたちに向かって、邪悪なシャポリの呪いから、仲間たちを守ってくれるように、特に無防備な子どもたちを守ってくれるようにと彼が唱いかけるとき、村の人々の心は落ち着くのだった。
 ある朝、その老シャポリが真っ直ぐエテワの小屋にやってきた。そして空いているハンモックに腰を下ろすと、ナップサックに隠している宝物を見せるように言った。
 隠しているものなんかない、と思わず言いかけたが、私は無言で垂木に結んであるかごを外した。石の一つをくれというのが分かっていたので、それがファン・カリダードのくれた石ではないようにと、私は心から願った。その石こそが私をジャングルに連れてきてくれたのだ、と私は信じていた。プリワリウェがその石を持って行ってしまったら、ミラグロスがやってきて、私を布教所に連れ戻すことになるような気がして、私は不安だった。あるいは何かもっと恐ろしいことが起こるかもしれない。私は無意識のうちに、その石には力があり、私を守ってくれていると信じていたのだ。
**181** 老人はダイアモンドともう一つの石を熱心に見比べた。彼はダイアモンドを日の光にかざした。「この石をもらおう」そう言って、にっこりと笑った。「この石は空の色をしておる」彼はハンモックに寝そべると、二つの石を腹の上に並べた。「さて、ファン・カリダードというシャポリのことを話してもらおうか。この男の現れた夢のすべてが知りたい」
「全部思い出せるか分からないけど」彼の細い、しわだらけの顔と、やせた体を見ながら、私はこの人のことを、自分が憶えているよりもずっと長い間知っているはずだという、おぼろげな感覚にとらわれた。私の視線を受け止める、笑みを湛えた彼の両目を見ていると、馴染み深い優しさにあふれた感覚が体の中に沸き上がってきた。自分のハンモックにくつろいで寝そべると、私は気楽にすらすらと喋り始めた。イティコテリの言葉が分からないところはスペイン語を使った。プリワリウェが気にする様子はなかった。私が話していることの実際の内容よりも、言葉の持つ音とリズムに関心があるように思われた。
 私が話を終えると、老人は噛みタバコの塊を吐き捨てた。タバコはリティミが畑仕事に行く前に用意してくれたものだった。カモシウェもしてくれた女シャーマンの話を、プリワリウェは小さな声で話し始めた。イマアワミは偉大なシャポリであっただけでなく、優れた狩り手であり、勇敢な戦士としても知られていた。敵の村を襲撃するときには、男たちと行動をともにしたのだ。
「鉄砲を持っていたの?」彼女の素性が知りたくて、私は聞いた。初めて聞いたときから、彼女は囚われの白人だったのではないかという考えに、私は取りつかれていた。スペイン人たちがエル・ドラドを求めてやってきた時代に遡る話かもしれないと、私は思った。
「弓と矢を使って戦った」老シャーマンは言った。「彼女の作るマムコリは最高のものだった」
 どんな言葉で質問をしても、イマアワミが実在の人物なのか、神話上の人物なのか、私には確かめることができなかった。**182**シャポリたちは皆、彼女はずっと昔の人間なのだという言い方をした。この老人が私を煙に巻いているわけではないのは確かだった。イティコテリの人たちにとって、過去のすべてがあいまいなのは、ごく普通のことなのだ。

 女たちが夜の食事の支度を終えたあと、広場の真ん中の焚き火の脇に、プリワリウェが座る晩があった。若い者も年寄りも、彼の周りに集まった。彼が発する言葉を一言も聞きもらすまいと、私はいつもできるだけ彼の近くに座った。低く、単調で、鼻にかかった声で、彼は人間の起源について、あるいは、火の、洪水の、そして月と太陽の起源について語った。すでに聞いたことのある物語の場合もあった。けれど、その度に語り直される物語は、いつ聞いても初めて聞くかのようであった。それぞれの語り手が、自分自身の幻視(ビジョン)によって物語に膨らみを与えるためだった。
「本当の創造の神話はいったいどれなの?」ある晩、話を終えたあとのプリワリウェに私は聞いた。その晩の話は、女シャーマンのワイピリショニが、オノトと水を混ぜて血を創ったというものだった。木のような体を持つ兄と妹に、この液体を飲ませることで、彼女は命を吹き込んだのだった。その前の晩の話では、最初の先住民族は、人間に似た存在の脚から生まれ出たのだと、シャポリは語っていた。
 一瞬困惑の面持ちでプリワリウェは私を眺めた。そして彼は言った。「みんな本当の話だ。幾世代にも渡って、何度も人間が創り出されてきたことを、お前は知らんのか?」
 私は驚いて首を左右に振った。彼は私の顔に触れると笑った。「オホー、いまだにお前はこんなに物を知らんのか。よく聞くんだぞ。炎と洪水によって世界が破壊されたすべての時のことについて話してやるからな」

**183** 数日後プリワリウェは、イラマモウェの長男であるショロウェが、シャポリとなる儀式に入ることを宣言した。ショロウェは十七歳か十八歳ほどの若者だった。小柄で華奢な、すばしこそうな体つきで、繊細な作りの顔には、思慮深気で大きすぎるくらいの瞳が光っていた。ショロウェはハンモックを一つだけ持って、彼のために広場に作られた小さな小屋に移った。ヘクラたちは女がいると逃げ出すと考えられていたので、女たちはその小屋に近づくことを許されなかった。ショロウェの母、祖母、姉妹も例外ではなかった。
 まだ女を知らない少年が一人、ショロウェの世話をするために選ばれた。この少年がショロウェの鼻にエペナを吹き込み、焚き火を絶やさないようにするとともに、毎日決まった量の水と蜂蜜を用意するのだった。シャポリになろうとするものは、水と蜂蜜しか口にすることができない。女たちはいつでも、十分な量の焚き木を、シャボノの外に用意しておいたので、少年は遠くまで探しに行く必要はなかった。蜂蜜を用意するのは男たちの役目だった。新しい蜂蜜を求めて森の奥まで入っていくようにと、シャポリは毎日男たちに発破をかけた。
 ショロウェはほとんどの時間を、小屋の中でハンモックに寝そべって過ごした。イラマモウェが小屋の外に置いた、磨き上げられた木の幹に座っていることもあった。地面に直接座ることが、許されなかったからだ。一週間もせずに、ショロウェの顔はエペナのため黒ずんできた。輝いていた瞳も濁り、虚ろな目つきになった。体は汚れてやせ細り、動きは酔っぱらいのようにふらふらとしていた。
 シャボノの中では普段通りの暮らしが続いた。ただし、ショロウェの小屋のそばに住んでいる家族たちは別だった。自分の囲炉裏で肉を焼くことが許されなかったからだ。プリワリウェによれば、ヘクラたちは肉の焼けるにおいを好まず、少しでもその嫌なにおいを嗅ぐと、山に逃げ帰ってしまうということだった。
 弟子のショロウェとともに、プリワリウェも昼夜を問わず、エペナを摂った。疲れを知らぬかのように何時間ものあいだ唱いを続けて、精霊たちにショロウェの小屋に入るようにうながし、ヘクラたちに少年の胸を切って開くようにと呼びかけた。アラスウェやイラマモウェが他の男たちとともに唱いに加わる晩もあった。
**184** ショロウェが、途切れ途切れの震える声で唱いに加わったのは、二週目のことだった。はじめは、アルマジロやバク、ジャガーなど、大きな獣のヘクラの歌だけを唱った。こうしたものは男の性質をもつ精霊であり、呼び寄せることは簡単なのだった。そしてやがて、蛇や蜘蛛、そしてハチドリといった、女の性質をもつ精霊の歌をも唱った。これらはおびき寄せるのが難しいだけでなく、気まぐれで嫉妬深い性質のため、操ることは困難なのだった。
 シャボノのほとんどが寝静まったある夜遅く、私はエテワの小屋の外に座って、男たちが唱いをするのを眺めていた。ショロウェはとても弱っており、男の一人に肩を借りてようやく立っていた。プリワリウェはその周りを踊って回った。「ショロウェ、大きな声で唱え」プリワリウェ老人はうながした。「鳥たちのように、ジャガーたちのように、大きな声で唱うんだ」プリワリウェは踊りながら森の中へ入っていった。「ショロウェ、もっと大きな声で唱え」彼は叫んだ。「世界中のあちこちに潜んでいるヘクラたちがお前の唱いを求めているぞ」
 三日が過ぎた夜、ショロウェの喜びに満ちた声がシャボノに響き渡った。「父さん、父さん、ヘクラたちがやってくるよ。彼らがぶんぶんうなるのが聞こえる。ぼくに向かって踊りながら、ぼくの胸や頭を開こうとしてるよ。ぼくの手の指や足を伝ってやってくるんだ」ショロウェは小屋から走り出し、老シャポリの前にしゃがみ込むと言った。「父さん、父さん、助けて、彼らがぼくの目や鼻の中に入り込んでくるんだ」
 プリワリウェはショロウェが立ち上がるのを助けてやった。二人は広場で踊り始めた。やせ細った二つの影が、月明かりに照らされた地面の上を舞い踊った。数時間後、絶望の叫び、パニック状態の子どもの悲鳴が暁をつんざいた。「父さん、父さん、今日からはぼくの小屋に女を近づけないでおくれよ」
**185**「みんながああ言うんだから」ハンモックから出てきながら、リティミが小声で言った。彼女は囲炉裏に焚き木をくべると、プランテンをいくつか熱い熾き火の下に埋めた。「エテワがシャポリの儀式を受けることを決めたときにはね、私はもう彼と一緒に暮らしてたんだ」彼女は言った。「それで、彼がプリワリウェに、自分のそばに女が来ないようにしてくれと頼んだ晩には、彼の小屋に行ってヘクラたちを追い出してやったわ」
「どうしてそんなことをしたの?」
「エテワのお母さんがそう仕向けたのよ」リティミは言った。「お母さんは彼が死んじゃうんじゃないかって心配だったの。それにエテワが女好きなのもよく知ってたから、彼が偉大なシャポリになれないのも分かってたのよ」リティミは私のハンモックに腰を下ろした。「全部話してあげる」彼女は私に体をくっつけて横になると、小声で話を続けた。「ヘクラたちがエテワの胸に入った夜のことだけど、今晩のショロウェと同じで、彼も叫び声を上げてたわ。そんなことをやらせるのは、女のヘクラなんだけどね。エテワはその晩、痛々しい声を上げて泣いてたのよ、邪悪な女が小屋の近くを通っていったとか叫んだりしてね。彼が、ヘクラたちは行ってしまったって言うのを聞いて、私だってすごく悲しかったんだから」
「エテワは自分の小屋に入ったのがあなだたって気づいたの?」
「いいえ」リティミは言った。「誰も私の姿は見てないわ。プリワリウェはひょっとして気づいてたかもしれないけど、何も言わなかった。彼にもエテワが偉大なシャポリになれないのは分かってたのよ」
「じゃあ、どうして、わざわざシャポリになる儀式を受けたの?」
「どんな男にだって、偉大なシャポリになれる可能性はあるからね」リティミが頭を私の腕の上に休めた。「あの夜遅くまで、たくさんの男たちが、ヘクラたちが戻るように唱いを続けたわ。でも精霊たちは戻ろうとしなかった。エテワが女に汚されたことも一つの理由だけど、ヘクラたちにとって、エテワはよい父親になれそうもなかったってことなのよ」
「女と寝ることで男が汚れるのはどうしてなの?」
**186**「シャポリだって寝るけどね」リティミは言った。「私にもどうしてかは分からない。シャポリも他の男たちと同じように寝るのを楽しんでるし。女といっぱい寝る男を妬んで嫌うのは、女のヘクラだとは思うよ」リティミは説明を続け、性的に盛んな男は、エペナを摂ったり、精霊に唱いを捧げる気持ちが弱いのだと言った。男の精霊の場合は、女の精霊のような執着がない。狩りや襲撃の前とあとに、幻覚性の嗅ぎ薬を摂るだけで、彼らは満足なのだ。「私は自分の夫は、よいシャポリじゃなくていいから、よい狩り手で、よい戦士であってほしいな」彼女はそう打ち明けた。「シャポリはあんまり女を好まないから」
「イラマモウェはどうなの?」私は聞いた。「彼は偉大なシャポリでしょ。でも二人の妻がいるじゃない」
「オホー、まったくあなたはもの知らずね。一から説明してあげなくちゃならないんだから」リティミは笑った。「イラマモウェは自分の二人の奥さんとはあまり寝ないのよ。彼の一番下の弟は、自分の女はいないんだけど、奥さんの片方と寝てるわ」リティミは辺りを見回して、立ち聞きしている人間がいないことを確かめた。「イラマモウェが一人でよく森に行くことは知ってる?」
 私はうなずいた。「でも、他の男たちもすることじゃない」
「他の女たちもね」リティミは私を真似て、わざとおかしな発音をした。イティコテリの鼻にかかった子音を正確に真似るのは、私にはとても難しかった。あの鼻にかかった音は、いつもタバコの塊を噛んでいるせいに違いないと私は思っていた。「でも、私が言いたいのは、そのことじゃないの」彼女は言った。「イラマモウェは偉大なシャポリなら誰もが求めるものを見つけるために森に入っていくのよ」
「それって何なの?」
「雷の住む処まで旅をする力、そして、太陽のもとまで旅をして、生きて帰ってくる力よ」
「イラマモウェが森で女と寝てるのを見たことがあるわ」私は打ち明けた。
 リティミは静かに笑った。「とっても大事な秘密を教えてあげる」彼女は囁いた。「イラマモウェはシャポリのやり方で女と寝るの。彼は女からエネルギーをもらうんだけど、代わりに何かを与えたりはしないのよ」
「彼と寝たことがあるの?」
 リティミはうなずいた。けれど、私がいくら求めても、それ以上の説明はしてくれなかった。
**187** そして一週間が経った。ショロウェの母、姉妹、叔母やいとこたちが、小屋の中ですすり泣き始めた。「老シャポリよ」母は叫んだ。「息子にはもう力がありません。飢えで息子を殺す気ですか。眠ることを許さずに殺すつもりですか。どうか息子を置いてお帰りください」
 歳経たシャポリは、女たちの泣き声にも動じることはなかった。あくる日の夕方、イラマモウェはエペナを摂り、息子の小屋の前で踊った。空中に高らかに跳んだかと思うと、地面に四つん這いになり、二つの動作を繰り返しながら、ジャガーの凶暴な唸り声を真似た。急に動きを止めると、その目は正面のどこかをしっかりと見据えて、地面に座り込んだ。「女よ、女たちよ、嘆くことはない」鼻にかかる大きな声で、彼は叫んだ。「あと幾日かの間、ショロウェは食べることなく過ごすのだ。体は弱って見えるだろう。動きはよろよろとしているだろう。そして、眠りについてうめき声を上げることもあろうが、決して死にはせん」イラマモウェは立ち上がると、プリワリウェのところへ行き、自分にさらにエペナを吹き込むように頼んだ。そして、もといた場所に戻って、また座り込んだ。
「よく聞いて」リティミが私に言った。「イラマモウェは、シャポリになる儀式のときに太陽まで旅をした、数少ない男の一人なの。彼は他の男たちの初めての旅を何度も導いてきたわ。彼は二つの声を持っている。一つはあなたもさっき聞いたばかりの彼自身の声。もう一つは彼のヘクラの声よ」
 今やイラマモウェの言葉は、胸の奥から溢れだし、深い谷へと落ちていく無数の石のような勢いだった。それぞれの小屋に集まっている人々の沈黙の中へと、彼の言葉は転がり込んでいった。煙と予感が重々しく垂れ込める空気の中で、人々は寄り添い合い、息一つしていないかのように静まり返っていた。イラマモウェの中に住むヘクラが何を言い出すのか、シャポリになる儀式の、神秘の世界の中でいったい何が起こるのか、人々は期待に目をぎらぎらさせながら待ち構えていた。
「息子は地の底深く旅をして、いくつもの静寂の洞窟の中で、灼熱の炎に焼かれたのだ」轟くようなヘクラの声で、イラマモウェは語った。「ヘクラの目に導かれて、暗闇のなか蜘蛛の巣を振り払い、川を渡り、山を越えて彼は旅した。ヘクラたちに鳥の歌、魚の歌、蛇や蜘蛛、猿やジャガーの歌を教えられながらな。
**188**「彼の目はくぼみ、頬もこけたが、まだまだ力は残っている。静かに燃える洞窟へと降りていき、森の霧を越えて旅する者たちは、その胸のうちに、自らのヘクラを住まわせて戻ってくるのだ。この者たちは、太陽のもとへと、すなわち、空のヘクラたち、我が兄弟姉妹たちの輝く小屋へと導かれていく運命を持つ者たちなのだ。
「女よ、女たちよ、彼の名を叫ぶのはやめよ。彼に旅を続けさせてやるのだ。母や姉妹たちのもとから旅立たせてやるのだ。そうすれば彼は、光の世界にまで行き着くことになろう。そこは闇の世界よりも、なお一層力を消耗する場所なのだ」
 呪文にかけられたように、私はイラマモウェの声に聞き入った。誰も話さず、誰も動かず、誰もが彼の姿だけを見ていた。息子の小屋の前で身動き一つしない彼の姿を。言葉を区切るごとに、彼の声は、力強く、さらに高い調子になっていった。
「女よ、女たちよ、嘆くのはやめよ。旅の途中で彼は、霧の垂れ込める長い夜にも負けない者たちと出会うだろう。旅で遭遇するどんな出来事にも恐れを抱かない者たちとも出会うだろう。体を焼かれ、切り刻まれた者たちや、骨を抜かれ、暑い太陽の日射しでからからに干された者たちにも出会うだろう。そして、太陽へ向かう旅路においても雲の中に落ちることのない者たちに出会うだろう。
「女よ、女たちよ、彼の釣り合いを乱してはならん。息子は今や旅の最後の段階へと来たのだ。暗い彼の顔を見てはならん。落ち窪んで光の消えた彼の目を見てはならん。彼は孤高の男になる定めの者なのだから」イラマモウェは立ち上がった。そしてプリワリウェとともにショロウェの小屋に入ると、夜を通してヘクラたちに、静かに唱いを捧げ続けた。
**189** それから数日後のことである。幾週にも渡るシャポリになるための儀式の間ショロウェの世話をしてきた若者が、温かいお湯でショロウェの体を洗い、香り高い木の葉を使って水気を払ってやった。そして若者は、炭とオノトを混ぜ合わせたもので、ショロウェの体に模様を描いた。額から両の頬を通って肩までは、波打つ線が数本描かれ、体の残りの部分は、かかとに至るまで均等に、水玉模様が描かれた。
 しばらくの間ショロウェは、広場の真ん中に立ち尽くしていた。落ち窪んだその目は、深い憂いをたたえ、哀しげな光を放っていた。自分がそれまでの人間ではなくなってしまい、ただの影にしかすぎないことにたった今気づいたばかり、とでもいうように見えた。しかし同時に、彼の周りには以前にはなかった力強い気が感じられもした。自分が新しく身につけた知恵と経験に対する確信のほうが、過去の記憶を上回っているかのようだった。プリワリウェが静かに、ショロウェを連れて森へと入っていった。

[続く]

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