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2017年6月1日木曜日

06 フロリンダ・ドナー「シャボノ」 -- アマゾンの奥地・ヤノマミ族の暮らし


カルロス・カスタネダの呪術師仲間、フロリンダ・ドナーが描くアマゾン奥地のシャーマニズムの世界。「シャボノ」の翻訳、第六回めを公開します。
NHKの番組から劇場公開された「ヤノマミ~奥アマゾン-原初の森に生きる~-劇場版」でも描かれる、嬰児殺しの風習をもつヤノマミ族の物語です。

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06 フロリンダ・ドナー「シャボノ」
フロリンダ・ドナー「シャボノ」那賀乃とし兵衛訳、第六回
Frolinda Donner "Shabono" 1982 a Laurel Book
[今回は、四百字詰め原稿用紙28枚ほどの分量です]

☆この作品の簡単な紹介はこちらにあります。
[本の紹介: フロリンダ・ドナー「シャボノ」]

☆第一回〜第五回はこちらです。
[第一回] | [第二回] | [第三回] | [第四回] | [第五回]

[この試訳は編集中のものですが、ネット上で公開することにより、多くの方からのご意見をいただけたらと考え、こちらに置くことにします。それでは、お楽しみください]

今回より第二部に入り、若き女性文化人類学者のフロリンダが、いよいよ森の奥の先住民族たちと暮らし始めます。

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第二部


**062**
「それで、いつ戻ってくるつもりなの?」六ヶ月後、布教所のコリオラーノ神父宛ての手紙を渡しながら、私はミラグロスに訊ねた。その手紙には、少なくともあと二ヶ月はイティコテリの人々のところにいるつもりだと、簡単に書いた。また、カラカスにいる友だちに連絡してくれるように頼み、そしてこれが一番大事なことだったが、手に入るだけのノートと鉛筆をミラグロスに持たせてくれるようお願いした。「ねえ、いつ戻るの?」私はもう一度聞いた。
「二週間かそこらだ」ミラグロスは何気なくそう言って、竹製の矢筒に手紙を入れた。そして、私の顔に不安の色を見て取ったのだろう、言葉を付け加えた。「実のところ、いつとは言えん。だが、戻るのは間違いない」
川へと続く坂道を彼が下っていくのを私は見守った。背中の矢筒の位置を直し、それからちらりとこちらを振り返ると、彼は少しのあいだ動きを止めた。何か言いたげな様子だったが何も言わず、手を振って彼は別れを告げた。
私はゆっくりとシャボノへ戻る道を歩き始め、途中、男たちが畑の脇で木を切り倒しているところに出くわした。私は地面に積もった落ち葉の下に埋もれている木の皮や木っ端で足に怪我をしないよう注意ながら、開けた地面に転がされた丸太を避けて歩いた。
**062**「プランテンが熟す頃には戻ってくるさ」エテワが大きな声でそう言うと、ミラグロスがさっきしたのと同じように手を振った。「収穫の祭りを彼が逃すわけがない」
微笑みながら手を振り返し、祭りはいつなのかと聞こうかと思ったが、その必要はなかった。プランテンが熟したときだと、彼はすでに答えを言っていたのだから。
シャボノの大きな入り口の前には、夜になると木の枝や丸太をばら撒いてて侵入者を防ぐようにしてあるのだが、もうそれは片付けられていた。まだ早い時間だったが、円形に開かれた広場に面した小屋には、ほとんど誰もいなかった。女も男も近くの畑に働きに行ったか、野生の果物やハチミツ、そして焚き木を集めに森に行くかしていた。
小さな弓矢を手にした子どもたちの一団が、私の周りに集まってきた。「ぼくが仕留めたトカゲだよ」尻尾を持ってぶら下げた獲物を見せながら、シシウェが言った。
「こいつにできるのはそれだけ、トカゲを仕留めるのが精一杯なのさ」少年の一人がからかって言いながら、片足のかかとをもう一方の足の爪先で掻いた。「おまけに大抵しくじるんだから」
「しくじるもんか」怒りに顔を赤くしながらシシウェは大きな声を上げた。
私は彼の頭のてっぺんの短い毛を撫でた。日の光の中でその髪は、黒でというよりは、赤みがかった茶色に見えた。彼がいつの日か村で一番の狩りの名手になるに違いないと、知っている少ない言葉の中から適切な言葉を探して、私は彼に伝えようと努力した。
シシウェは、リティミとエテワの息子で、もうじき七歳になるところだったが、ペニスひもはまだしていなかった。リティミは男の子はペニスを下腹に結び上げたほうがよく育つと信じており、何度もそうさせようとした。けれどシシウェは痛いからと言って嫌がった。エテワはこだわらなかった。息子は健康で丈夫に育っている。男にとって、腰紐をつけずに人前に出るのはよくないことだと、シシウェもじきに思うようになるだろうと、彼は考えたのだ。**063**ほかのほとんどの子と同じく、疫病除けとしてシシウェも首の周りによい香りのする木の根のかけらを結んでいたし、体の模様が薄れてくれば、再びオノトで模様を描き直していた。
シシウェは怒っていたことなど忘れて、にこにこ笑いながら私の手をつかむと、すっとなめらかな動作で木登りでもするように、私の体にするすると登った。足を私の腰に巻きつけ、体を後ろに反らすと両手を空に向けて伸ばし、叫んだ。「見てよ、なんて青いんだろう。きみの目の色と一緒だ」
広場の真ん中から見上げる空は雄大で、その美しさが、木やつるや葉っぱに遮られることはなかった。村を囲む丸太の柵の向こう、シャボノの外側には、草木が濃密に生い茂り、そびえているのが見えた。木々は少しのあいだ検査で待たされているので静かにしているとでも言うかのように、時がくれば動き出すのではないかと思うほど生き生きとしていた。
子どもたちが私の腕に組みついてきて、シシウェごと私は地面に倒されてしまった。私には初め、誰がどの子どもの親なのか、さっぱり分らなかった。子どもたちはあちらの小屋からこちらの小屋へと自由に行き来し、どこでも好きなところで食べたり寝たりしていたからだ。赤ん坊は始終母親の体にくくりつけられていたので、誰の子なのかすぐ分った。昼夜を問わず、母親が何をしているかにも関係なく、赤ん坊はまったく煩わされることなく時を過ごしているように見えた。
ミラグロスがいない間どうしたものかと私は考えた。毎日数時間に渡って、仲間の言葉や習慣、考え方について彼は教えてくれ、私は熱心にそれをノートを取った。
イティコテリの人々について、誰がなんという名前なのかを知るのは実に厄介なことだった。誰かが侮辱されたときを除けば、彼らが互いに名前で呼び合うことはなかった。リティミとエテワは、シシウェとテショマの両親として呼ばれた(子どもは名前で呼ぶことが許されたが、それも思春期が訪れるまでのことである)。**064**更にややこしいことには、男でも女でも一つの家系に属するならば、互いに兄弟、姉妹と呼び合い、別の家系に属する場合は、義兄弟、義姉妹と呼ぶのだった。また、結婚が許される家系の女を妻にした男は、妻の家系の全ての女を〈妻〉と呼ぶのだが、これは性的な関係があることを意味するわけではない。
ミラグロスがしばしば言っていたことだが、慣れる必要があるのは私ばかりではなかった。イティコテリの人々も、私の奇妙な行動に大変面食らっていたのだ。彼らにとって、私は女でも男でもなく、子どもというわけでもない。私のことをどう考えればいいのか、どういう存在として扱えばいいのか、彼らにもさっぱり分らなかったのだ。
ハヤマのお婆が小屋から現れ、子どもたちに私をそっとしておくよう、甲高い声で言った。「まだお腹を空かせてるんだよ」彼女はそう言うと、私の腰に手を回し、自分の小屋の炉端へと私を招いた。
他の村との交易で得たアルミとホウロウの鍋、亀の甲羅、ひょうたん、そしていくつものかごが地面に散らばっている中、そうした品々を踏みつけたり、ぶつかったりしないよう気をつけながら、ハヤマの向かいに私は座った。ほかのイティコテリの女たちと同じように私は足を真っ直ぐ伸ばし、ハヤマのペットのオウムの頭を掻きながら、食事ができるのを待った。
「お食べ」焼いたプランテンを割ったひょうたんに載せて手渡しながら、彼女は言った。私が唇を何度も鳴らしながら、口を開けて噛む様子を、老婆は熱心に見守った。柔らかく甘いプランテンを私が十分に味わっていることに満足して、彼女は微笑んだ。
ハヤマのことはミラグロスに、アンゲリカの姉妹として紹介してもらった。彼女を見るたびに森の中で永遠の別れを告げた弱々しい老婆の面影を私は探した。ハヤマは五フィート四インチほどの身長でイティコテリの女としては背が高かった。体つきも違ったが、ハヤマには姉妹のアンゲリカが持つ心の軽やかさがなかった。ハヤマの声も物腰も厳しいので、私は落ち着かない気持ちになることも度々だった。そして重く垂れ下がった目ぶたのため、彼女の顔は奇妙に不吉なものに見えるのだった。
**065**「ミラグロスが戻るまで、お前はここにいたらいい」焼いたプランテンをもう一本くれながら、老婆は言った。
熱い果物を頬張っていたので、私はその言葉に答えないで済んだ。ミラグロスは、村の他の人々に紹介するのと同様、イティコテリの首長であり、自分の義兄弟でもあるアラスウェにも、私を紹介してくれた。しかしながら、エテワとその二人の子どもと一緒に住んでいる小屋に私のハンモックを吊るすことによって、私の面倒を誰が見るかをはっきりさせたのは、リティミだった。「白い娘はここで寝るのよ」彼女はミラグロスにそう言って、シシウェと幼いテショマのハンモックは隣のトゥテミの小屋の炉端に吊るすのだと説明した。
リティミの考えにわざわざ何か言う者はなかった。リティミが自分たちの小屋とトゥテミの小屋を行ったり来たりし、焚き火を囲んで習慣通りの三角形にハンモックを吊るし直すのを、エテワは優しいけれどからかうような笑みを浮かべながら黙って見守った。小屋の裏側の屋根を支える柱の間に作られた小さなロフトには、木の皮の箱、一揃いのかご、一丁の斧、そしてオノトや種、根を入れたひょうたんが置いてあったが、私のナップサックもそこに並べて置かれた。
リティミは、首長であるアラスウェと第一夫人の間に生まれた長女だった。彼女の母親はハヤマのお婆の娘だったがすでに亡くなっていた。リティミの自信は、自分が首長の娘であることや、エテワの第一夫人であり、お気に入りの妻であるという事実からくるだけではなく、短気ではあるものの、シャボノの皆から尊重され、好かれているということを知っていることによっても裏打ちされていた。
「もう十分」ハヤマが囲炉裏からもう一本プランテンを取ろうとするので、私は断った。「お腹いっぱいよ」彼女にお腹の膨れ具合が見えるように、私はTシャツをまくってお腹を突き出した。
「骨の周りにもっと脂肪をつけんと」そう言いながらお婆は、バナナを潰して指でこねた。「お前のおっぱいの小さいことと言ったら、子ども並みだからねえ」くすくす笑いながら、彼女は私のTシャツを更に巻き上げた。「これじゃあ、お前を欲しがる男はおらんな、骨で怪我でもせんかと恐れをなすわい」
**066** 怖がっている真似をして両目を見開き、私は潰したバナナをがつがつ食べる振りをした。「あなたの作ってくれる食事を食べていれば、よく太ってきれいになるのは間違いないわね」バナナを頬張ったまま、私は言った。
川で水浴びをしたあとの、まだ濡れたままの姿で、棘の生えたさやで髪をとかしながら、リティミが小屋に入ってきた。隣に座り、私の首に両腕を巻きつけると、私の顔中に音を響かせながらキスをくれた。私は笑いをこらえることができなかった。イティコテリの人々のキスはくすぐったいのだ。変わったキスの仕方で、頬や首に唇を当てると、音を立てて空気を吐き出しながら唇を振動させる。
「白い娘のハンモックをここに移そうとしてるんじゃないでしょうね」祖母を見ながらリティミは言った。口調は断固としたものだったが、黒い目には柔らかく問いかけるような表情が浮かんでいた。
  言い争いの原因にはなりたくなかったので、自分のハンモックをどこに吊ろうが大した違いはないのだと、私ははっきり言った。小屋には壁などないのだから、実質的に私たちは一つの住居で暮らしているのと変わりない。ハヤマの小屋はトゥテミの小屋の左にあり、私たちの小屋の右には首長アラスウェの小屋があった。アラスウェは、一番年上の妻とまだ小さい子ども三人と一緒にそこに住んでいた。彼のもう二人の妻とそれぞれの妻との間の子どもたちは、更に並びの小屋に住んでいた。
リティミはじっと私の顔に見入り、その目には懇願する様子が見えた。「ミラグロスはあなたの世話を私に任せていったのよ」彼女はそう言って、頭皮は引っ掻かないように優しく、棘の生えたさやで私の髪をとかした。
永遠とも思われる沈黙ののちに、ようやくハヤマが口を開いた。「ハンモックは今あるところに吊るしておけばいい。だが、食事はここでわしと一緒にするんだよ」
いい考えだと私は思った。エテワはすでに四人の食い扶持を確保する必要があった。一方ハヤマは、一番若い息子によく面倒を見てもらっていたのだ。椰子で葺かれた屋根から吊るされている獣の頭蓋骨とプランテンの量からして、ハヤマの息子は猟師としても百姓としても立派な腕前の持ち主に違いなかった。**067**焼いたプランテンを朝に食べる以外は、家族が集まって食事をするのは、午後遅くにもう一度あるだけだった。人々は一日中、手に入るものなら何でも口にしていた。果物や木の実、あるいはご馳走である蟻や蜂の子を焼いたものなどである。
食事についてのハヤマの提案を、リティミも気に入ったようだった。ニコニコしながら彼女は私たちの小屋へと歩いていき、私のハンモックの上に吊ってあるかごを下ろした。そのかごは彼女が私にくれたもので、彼女はその中からノートと鉛筆を取り出した。「さあ、仕事にかかるわよ」命令調で彼女は言った。

それまでの六ヶ月間ミラグロスがしてくれたのと同様に、この日からはリティミが仲間たちのことを私に教えてくれることになった。ミラグロスは毎日数時間を私が正式な授業と呼ぶものに充ててくれた。
初めのうち、彼らの言葉を覚えるのは実に大変なことだった。発音がとても鼻にかかったものである上に、人々がタバコの塊を口に入れて喋るもので、聞き取ることがとても難しかったのだ。比較文法の手法での記述も試みたが、じき諦めた。十分な言語学の知識がなかったこともあるが、彼らの言葉を学ぶのに、理論的にしようとすればするほど、かえって喋ることができなくなってしまうのに気がついたからだ。
子どもたちが一番の先生だった。色々なものを指さしてその名前を教えてくれ、とても面白がりながら、私が言葉を繰り返し言うのを助けてくれた。そして、何かを意識的に説明しようとしたりは一切しなかった。子どもたちと一緒にいると、間違いを恐れる必要などなしに、長いあいだ言葉の練習を続けることができた。ミラグロスがいなくなったあとにも、理解できないことはまだまだたくさんあったが、声の調子や顔の表情、そして手と体の雄弁な動きの意味を適切に読み取ることができるようになり、自分でも驚くほど、みんなとのコミュニケーションはスムーズなものとなった。
正式な授業時間の合間に、リティミは様々な小屋に私を連れていき、たくさんの女たちに会わせてくれた。私はどんな質問でもすることができた。**068**女たちは私の好奇心に面食らいながらも、ゲームでも楽しむかのように気さくに話をしてくれた。私に分からないことがあると、繰り返し繰り返し気長に説明をしてくれた。
ミラグロスが先例を作ってくれたお陰で私は大いに助かった。ここでは好奇心は悪いことと見なされるだけでなく、質問はされたくないという彼らの気持ちにも逆らうものでもあっだ。にも関わらず、ミラグロスはとても寛大に私が好奇心のままに振る舞うことを許してくれた。私の好奇心のことを風変わりな気まぐれと彼は呼んだが、この娘はイティコテリの言葉や習慣について知れば知るほど、それだけ早く皆とくつろいでいられるようになるのだ、と説明をしてくれたのである。
そうやって話を聞いているうちに、じき分かったのは、直接的な質問をたくさんする必要はないということだった。自分の側について何気なく説明するだけで、それに対応する相手側のことを、それも、教えてもらえるとは思いもしなかったようなことまで色々と聞かせてもらえることも、しばしばだった。
毎日暗くなる前の時間に、リティミとトゥテミに手伝ってもらいながら、昼の間に集めたデータに向かい、社会構造、文化的価値、自給技術などといった、人間の社会行動に関する普遍的なカテゴリーによって分類することを試みた。
しかし、大変残念なことに、ミラグロスが触れることをしない話題が一つだけあった。シャーマニズムである。自分のハンモックの中から治療の儀式を二回見る機会があり、細かい点に至るまで記録を取ることができた。
「アラスウェは偉大なシャポリだ」一回目の治療の儀式を見ているときにミラグロスはそう言った。
「祈りを唱えることで精霊の助けが得られるの?」ミラグロスの義兄弟であるアラスウェが、うつ伏せに寝ている子どもの体をマッサージし、吸い、こするのを見ながら私は訊ねた。
ミラグロスは怒った顔でこちらを見た。「話してはいかん事柄というものがある」彼は急に立ち上がったが、小屋を立ち去る前につけ加えて言った。「こうしたことについての質問はいかん。そんなことをすれば全くやっかいなことになるぞ」
**069** ミラグロスの言った内容には驚かなかったが、あからさまな怒りは予期しないものだった。彼がその話題について話さないと言うのは、私が女だからなのか、それともシャーマニズム自体がタブーの話題だからなのだろうか、と私は考えた。その時点では敢えて答えを探そうとは思わなかった。女であり、一人きりの白人なのだから、用心するに越したことはなかった。
多くの社会において、シャーマニズムに関わる知識や治療の実践というものは、修行者以外の者には明かされないものであることは、私も了解していた。ミラグロスがいない間、シャーマニズムという言葉こそ一度も口にしなかったが、怒りや疑いを引き起こすことなくシャーマニズムについて知るためにはどうしたらよいだろうかと、私は長い時間をかけて考えた。
シャポリが幻覚性の嗅ぎ薬であるエペナの影響下にあるとき、その体が変化をこうむると、イティコテリの人々が考えていることは、二回の儀式について取ったノートから明らかだった。つまり、シャーマンは自分の人間としての体が、超自然的体に変身しているという仮定の下に行動をしており、これによってシャーマンは森に住む精霊と交信することができるのである。私の方法論の眼目は、体を通してシャーマニズムを理解することにあった。ここでいう体とは、精神化学的法則や、自然の中の全体論的な力、環境、あるいは魂自体によって決定される対象としての体ではなく、生きて経験するものとして体、行動を通して立ち現れる、表現する統一体としての体を意味する。
私の研究も含めて、多くのシャーマニズムに関する研究は、治療についての精神療法的な面と社会的な面とに焦点を当てていた。私の方法論は、新しい説明を提供するだけでなく、疑いを引き起こすことなく治療について知ることをも可能にしてくれるだろうと私は考えた。体に関する質問だからといって、シャーマニズムに関係するとは限らない。私が実際には何を目的としているか、イティコテリの人々に気づかれることなく、少しずつ必要な情報を集めることができるに違いなかった。
**070** 自分がしている不誠実なやり方について感じる良心の痛みは、西洋以外の治療の実践を理解するためには、この研究はとても大切なものなのだと、何度も自分に言い聞かせるうちに静まっていった。風変わりな、そして多くの場合奇妙としか言いようのないシャーマニズムの風習は、別の解釈の枠組みのもとで光を当ててこそ理解可能になるものであり、一般的に、このようにして人類学の知識は深められていくのである。

「もう二日間も仕事をしてないじゃないの」ある午後、リティミが言った。「昨日の夜の踊りのことも質問してないでしょ。あれが重要なものだって分らなかったの? 私たちの歌と踊りがなかったら、狩りに出ている者たちは祭りのための獲物を持って帰ることができないのよ」彼女は私を叱りながらノートを膝に投げてよこした。「本に模様を書くことすらしてないでしょ」
「ニ、三日、休憩を取ってるの」そう言って私は、自分の持ち物のの中で一番大切なものであるかのように、そのノートを胸の前で抱きしめた。ノートのどの一ページを取ってもシャーマニズムに関するデータで一杯であることを、彼女に伝えるつもりは全くなかった。
リティミは私の両手を取り、じっくりと調べ、とても深刻そうな顔を装って言った。「両手ともすごく疲れてるようね。休ませてあげなくちゃ」
私たちは吹き出した。ノートに模様を描くことを私が仕事と考えていることに、リティミはいつも面食らっていた。彼女にとって仕事といえば、畑の草を取ること、焚き木を集めること、シャボノの屋根を直すことだったからだ。
「踊りも歌もとても素敵だった」私は言った。「あなたの歌っている声がちゃんと分ったわ。美しい声ね」
リティミは嬉しそうに笑った。「歌はとっても上手なの」その言葉には控えめな自信が率直に表され、魅力的だった。少しも自慢気ではなく、事実を述べているだけなのだ。「狩りに出ている人たちは、きっとたくさん獲物を取ってくるわ、祭りに来る人たちが食べきれないほどね」
うなづいて同意しながら、私は小枝を探し、柔らかい地面に人間の体を描き始めた。「これは白人の体」主な内臓や骨を描きながら私は言った。「イティコテリの人の体はどうなってるの?」
「そんなばかげた質問をするなんて、相当くたびれてるのね」リティミはそう言って、なんておばかさんなの、と言いたげな顔で私を見つめた。彼女は立ち上がって踊り始め、大きな声でメロディアスに歌った。「これが私の頭、これが私の腕、これが私の胸、これが私のお腹、これが私の……」
じきにリティミの奇妙な踊りに惹かれて、女たち、男たちが周りに集まってきた。甲高い声を上げ、笑いながら、互いの体について卑猥なことを言い合った。大人になりかけた少年たちの中には、笑いすぎて、自分のペニスをつかみながら、地面を転げ回る者までいた。
「私が描いたみたいに自分の体の絵を描ける人はいない?」私は聞いた。
数人がこの問いかけに応え、木のかけら、枝、折れた弓などを手に取り、地面に絵を描き始めた。彼らの描いた絵には、それぞれに明らかな違いがあった。はっきりと分かるように強調して描いてある性的な違いだけでなく、男たちの体には全て胸の中に小さな何者かの姿が描かれていたのだ。
私は自分の喜びを隠すことができなかった。これこそアラスウェが、治療の儀式を始める前に呼び出していた精霊に違いないと思ったのだ。「これは何なの?」私は何気なく聞いた。
「男の胸に住んでる森のヘクラたちさ」男の一人が言った。
「男たちはみんなシャポリなの?」
「男はみんな胸にヘクラたちが住んでるんだ」男は言った。「だけど本物のシャポリだけがヘクラたちを使うことができる。そして偉大なシャポリだけが、病気を治したり、敵のシャポリの呪文を解いたりするために、自分のヘクラたちに命令することができるのさ」私が描いた絵を見ながら、彼は訊ねた。「どうしてあんたの絵には足の中にまでヘクラスが描いてあるんだい? 女にはヘクラスはいないのに」
そこに描いてあるのは精霊ではなく、内臓と骨であることを説明すると、彼らはすぐさま自分たちの絵にもそれを描き加えた。私は知ることのできた内容にすっかり満足して、リティミが森に焚き木を集めに行くのに喜んでついていった。焚き木を集めることは、女の仕事の中でも一番大変で、一番嬉しくないものだった。囲炉裏の火を絶やすことは許されなかったから、焚き木はいくらあっても、ありすぎるということがないのだった。
**072** その晩も、私が村にやって来て以来の毎晩と同様、リティミは私の足に棘や何かのかけらが刺さっていないかを調べてくれた。そして、何もないことに満足すると、両手で私の足をこすり、きれいにしてくれた。
「シャポリがエペナを摂ったときには、体が変身することになるのかなあ?」私は言った。私の理論的仮説の独自性は、シャーマンが体に関する一つの想定のもとに行動しているということにあったので、彼ら自身の言葉でそのことを確認しておくことが重要だった。つまり、その想定がその集団の中で共有されているのかどうか、もしそうなら、それは意識的な性質のものなのか、それとも無意識的なものなのかを知る必要があったのである。
「昨日のイラマモウェを見た?」リティミは聞いた。「彼が歩くところを? 彼の足は地面に触れやしなかった。彼は力のあるシャポリよ。偉大なジャガーになっていたの」
「彼は誰の治療もしなかったね」私は重たい気持ちになって聞いた。アラスウェの兄弟であるイラマモウェが偉大なシャーマンと見なされていることに、私は幻滅していた。自分の妻を殴っているところを二度も見たことがあったからだ。
会話を続けることに興味を失くして、リティミはむこうを向くと、夕べの儀式の準備に取りかかった。彼女は小屋の裏手の小さなロフトから私の持ち物をしまってあるかごを取り出し、地面に置いた。一つ一つ品物を取り出しては頭の上にかざし、私がその名前を言うのを待った。私が名前を言うとすぐに、まずスペイン語で、続いて英語で、彼女は名前を繰り返し、そうして首長の妻たちと他に何人かの女たちが、私たちの小屋に毎夜集まっては、異国の言葉を口にするという、夜の合唱の時間が始まるのだった。
自分のハンモックでくつろいでいる私の髪を、トゥテミが指でかき分け、いるはずのないしらみを探してくれた。少なくとも今のところ、一匹もいないはずだと、私は確信していた。リティミは二十歳くらいだと思っていたが、トゥテミはそれより五、六歳若く見えた。トゥテミの方が背が高く、体重も重く、彼女のお腹は初めての妊娠で大きくなっていた。**073** 彼女は恥ずかしがりで引っ込み思案だった。黒い瞳に、寂しげな、遠くを見るような眼差しをたたえていることもしばしばで、声に出して考えごとをしているかのように、ひとり言を言っていることも時々あった。
「シラミよ、シラミ!」女たちのスペイン語と英語の謡いをさえぎって、トゥテミが大声を出した。
「見せて」冗談を言っているのだろうと思いながら私は言った。「シラミって白いの?」彼女の指の上に小さな白い虫を見ながら私は聞いた。シラミは黒っぽいものとずっと思っていたのだ。
「白い娘に白いシラミね」トゥテミはいたずらっぽく言った。そして満足気に喜びの表情を浮かべながら、その虫を一匹ずつ歯で潰しては飲み込んだ。「シラミはみんな白いのよ」

☆続きはこちらです。
[第七回]

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☆第一回〜第五回はこちらです。
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